泥だらけの純情
無料あり
動画ポイント対象
330円
外交官の令嬢、樺山真美が始めてチくざの次郎と知り合ったのは新宿の盛り場である。
その日、塚田組長に頼まれて、次郎はヤクを相手の森原組の事務所に届ける途中だった。
高校生の真美はクラスメイトの智子と入院中の先生を見舞いにいくところを、不良大学生につけ廻されて困っていた。次郎は何ということなく真美と智子を逃がしてやったが、皮肉なことに相手が飛び出しナイフを向けてきたために乱斗となった。腹を数ヵ所刺された次郎が、ハッと気がつくと意外なことに相手の一人が、自分の持ったナイフを誤まって心臓に刺して死んでいるのだった。ひん死の重傷で、森原組に駈けこんだ次郎は、ヤクを届けると、そのまま兄貴分の花井の世話で、場末の一室で治療を受けた。
翌日の新聞は、デカデカと白昼の殺人事件を報じた。被害者は経団連の理事の息子という。もちろん、当局は愚連隊の犯行とみて捜査を開始した。「全部でたらめだぜ。オレは殺人なんかしねえ。兄貴にいわれて、刃物は持たねえことにしてるもの」見舞いに来た花井に新聞をみせられると、次郎は歯ぎしりをした。だが、その花井は、次郎に自首をすすめた。現場にヤクがちていたために、塚田組がガサを喰うというわけだ。「少しぐれえ痛之目にあってもこれを機会に、この稼業から足を洗うのもいいぜ」次郎を可愛がる花井はポンと次郎のオデコを叩いた。
その頃、真美は、新聞をみて驚ろいた。参考意見を聴取にきた刑事に真美は智子と二人でことの真相を話した。「あの白いジャンパーの方が助けてくれなかったら・・・・...ほんとに私たち自動車に押しこまれるところだったんです。あの方には、本当にお礼をしなくては....」真美は早速、知人の公安委員大山にも事情を説明した。
警視庁に自首した次郎は一日で釈放された。もちろん、真美の尽力がものをいったためである。
塚田組長は、次郎がヤクのことは一切喋らなかったときいてホッとした。翌日から次郎の服装はバリッとなった。弟分の信次を従えて盛り場を歩く足取りも軽い。辺りのチンピラは、肩で風切る次郎に一様にペコンと頭をさげた。顔なじみのバー・ミシシッピーの女給、美津の目つきも何か色っぽいものがある。
だがそんなある日、横浜の樺島家から、人を介して、お礼の金一封が届いたということで、次郎は無性に腹が立った。オレはゼニが欲しくて助けたんじゃない。有難うのひとことでいいんだ」一本気な次郎に、さすがの塚田組長も、娘の和枝も事務所でにが笑いをした。次郎に惚れている和枝はそんな次郎の気持好きなのだ。
次の日、次郎は信次を連れて横浜に出かけた。めざすは真美の学校と、邸宅である。
「いい気ンなりやがって・・・・お嬢さんづらしているあのスヶ、ひっかけてやるんだ」だが、次郎はいかめしい学校の表門と豪壮な石塀をむなしく眺めてひきかえすのだった。
数日後、次郎はびっくりして、目をみはった。ハキダメの鶴ならお嬢さんが、ゴミゴミした汚たない次郎のアパートを訪ねてきたのだ。「こんなところは、お嬢さんのくるところじゃないんだ」次郎はドギマギしながら、口をきいたが、嬉しさはかくせなかった。
その日、次郎は真美をボクシングの試合にさそった。真美は始めてみる凄惨な試合にオッカなびっくりだったが、次郎はジュースやホットドックを買ったりせい一杯のサービスをみせた。
試合場を出た次郎は真美と別れると、寿司屋に飛びこんで、テレビのチャンネルをバシッ、バシッと切りかえた。「動物の生態......七面鳥の巻」これが次郎のみたい番組だった。真美がこれから家でみるといった番組なのだ。一方、真美は、弟の部屋からボクシングの雑誌を借りてくると、自分の部屋に閉じこもった。
その日から、音楽会の招待に続いて、次郎と真美のデイトが始まった。真美は毎土曜日代々木のフランス人の先生に外国語を習いにいく日に、次郎と会うことを約束したのだ。
だが、次郎は真美と会うたびに、背広や靴の新調をした。そのため、信次と組んで、悪徳を重ねた。
ある日、真美は横浜駅で次郎を半日待ったが、現われなかった。次郎は、売春斡旋容疑並びに街頭における恐喝容疑で逮捕されたのだ。
生れて始めての悲しみを味わった真美は、赤倉にスキーに出かけた。アパートの次郎の部屋には、開封されぬままの真美の手紙が重なっていった。
次郎が簡単な訊問だけで釈放されたと聞いた塚田組長は花井を呼んだ。
「こいつはくせえ。次郎を泳がせて、ヤクのガサ入れを狙っているんじゃねえか」あの新宿の盛り場の事件のとき次郎がヤクを少量落としたことは当局に知れていた。事実、あれ以来塚田組のヤクの上りはサッパリ悪くなっていた。
「どうだい、二、三年ムショに行ってこねえか」釈放されたばかりの次郎は花井に呼びだされた。次郎ひとりが被って…
一方、イランに赴任中の父親の要請で、真美の家族は、日本を出発することになった。しかし、真美は、次郎と別れて故国を去ることはしのびえなかった。
次郎が自首を覚悟した前日の夜、ボストンを持った真美が次郎のアパートを訪れた。「お嬢さんとは、これでさようならなんだ......永久に...」次郎の言葉に真美は愕然とした。しかし、真美の言葉も、次郎を驚かした。「私は次郎さんが好きです。もう家なんか・・・その覚悟で来ました」
思わずみつめあう次郎と真美は、表に花井の車が来たことを知ると、手をとって二人の世界に逃げ出した。
無料・予告一覧
- プレビュー 無料
- ジャンル
-
制作国
日本
-
制作年
1970年以前
- キャスト
-
スタッフ
企画 : 大塚 和 原作 : 藤原審爾「七曜社」版 脚本 : 馬場 当 監督 : 中平 康 撮影 : 山崎善弘 照明 : 高島正博 録音 : 片桐登司美 美術 : 大鶴泰弘 編集 : 丹治睦夫 音楽 : 黛 敏郎 助監督 : 曾我仁彦 製作主任 : 亀井欣一 スチール : 井本俊康