乳母車

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440円 K大学に通う桑原ゆみ子は友人から父に若い愛人のいることを聞かされ、愕然とした。鉄工会社の重役であり父次郎と物静かな母たま子との三人暮しの彼女の家では夫婦の争いごとがあった例がない。こういうことに却って不満を覚えていたのに……父には二号さんがあり、子供まで生れているという。母は父の秘密を知りながら、いつも無口に落つき払って花を生け、小唄をさらっているのを見てゆみ子は、一人だけつんば棧敷におかれ、恋愛の自由などを論じていた自分が一番軽薄な存在だったと痛感するのだった。 翌日、ゆみ子は学校の帰り、父の愛人相沢とも子の家を訪ねた。しかし、とも子は留守で弟の宗雄に会い、招かれるま、に座敷へ通された。そこで、ゆみ子は父ととも子が互に愛し合ってこのような関係になったことを知った。 「間もなく帰って来たとも子と入れ替りに宗雄は寝ていた赤ん坊を乳母車に乗せて散歩に出て行った。ゆみ子と向い合って座ったとも子は、自分の身の上について将来のことを考えると不安になるのだが、桑原の家庭の崩壊を恐れていた。とも子の家を出たゆみ子は寺の境内に乳母車をおき、ベンチで昼寝している宗雄を見つけた。それを眺めているうちに、ふと、ゆみ子の胸に不敵な決意が閃いた。うかがうように周囲を見まわし、ベンチの下にちらかっている宗雄の下駄をそろえて、乳母車を押して歩き出した。むづかる赤ん坊のおむつを取り代えてやったゆみ子はふいに歯をくいしばって号泣するのだった。その夜、ゆみ子は宗雄宛に謝まりの手紙を書いた。 夏休みを利用して、ゆみ子はとも子の家を訪れた。しかし、ガラス戸を開けた途端、彼女は土間に脱ぎすててある父の靴を見つけてハッとするのだった。帰り途、宗雄に出会ったゆみ子は、二人でまり子の味方になってやろうと約束した。まり子のことを次郎に話しに行った宗雄は、次郎ととも子の睦まじそうな姿を見て、黙って引き返すのだった。母たま子は、ゆみ子まで父の肩をもち、二号の家へ通っているのを知って、家を出る決心をし、遂に実家へ帰って行った。また、とも子からも次郎は、二人の関係を解消しようという話を聞いた。 二人は別れた。とも子は仕事を見つけて新しい生活に入って行った。しかし、まり子は……。ゆみ子と宗雄は、まり子を幸福にしてやるため、次郎、たま子、とも子の三人を会わせ、話し合いをさせることを企てた。 意外な所で初めて顔を合せた三人はまり子の処置について話し合った。が、まり子のための解決は何も与えられずに終った。結局、とも子が会社へ行っている間、まり子は乳児院に預けることになった。 夏休みの終りの日、ゆみ子は宗雄と連れ立ってまり子のいる乳児院を訪れ、三人で散歩に出た。まり子を抱いた宗雄は「赤ちゃんコンクール」の立看板に目を止め、催場へ急いだ。応募用紙に書いた「桑原次郎」「相沢とも子」の名前を見ていた宗雄は、いきなりそれを破ると、別の用紙に「相沢宗雄」「相沢ゆみ子」と書いてゆみ子とニッコリ微笑むのだった。今日だけは薄幸なまり子にも立派に両親がそろっているのだ。何も判らないまり子は乳母車の中でハシャイでいた。 コンクールの結果、まり子は三等に入選した。賞品を受けるゆみ子、宗雄の目には何か光るものがあった。これは嬉し涙だろうか、それとも、父親のいないまり子への憐憫の涙なのだろうか。入選の報告をすませた二人は乳母車を押して家路へ急いだ。果して、父は来てくれるだろうか、母は来てくれるだろうか、大人の気持は複雑だから判らない。僕たちがあんなにいっても、まり子の問題は結局どうにもならなかったんだ。でも、まり子には僕たちがついてると乳母車を押しながら誓い合う二人の行手には、夕焼け雲が輝いていた。
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  • スタッフ
    製作 : 高木雅行 原作 : 石坂洋次郎 脚本 : 沢村勉 監督 : 田坂具隆 撮影 : 伊佐山三郎 美術 : 木村威夫 録音 : 八木多木之助 照明 : 高橋勇 編集 : 辻井正則 音楽 : 斎藤一郎 助監督 : 牛原陽一 スチール : 石川久宣 製作主任 : 中井景
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