俺たちの血が許さない

01:37:18
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330円 浅利家の大黒柱、浅利源治が人の子供を残しこの世を去ったのは、昭和十六年の大革洋戦争勃発の頃であった。 ヤクザの縄張り争いがもとで何者かの凶刃に倒れた源治は「ヤクザは一代でいい、子供は真面目に育ててくれ!」と女房のはつにいい残して息を引きとった。刺した相手の名は決して口に出さなかった。 それから十八年の月日が流れた。 当時、幼なかった兄弟は女手一つで育てられ、すでにいっぱしの大人に成長していた。 兄の良太は一度はヤクザの道を踏んだものの、いまではそれを嫌いながらキャバレーの支配人をして毎月、母親のもとへ仕送りを続けていた。親孝行な良太にくらべ、サラリーマン・コースを選んだ弟の慎次は、一向に身が入らず会社の同僚、片貝ミエと陽気にハシャギまわっては母を手こずらせていた。兄と違って明るく無邪気な性格だが、父親に似てかどことなく気が強く、いつもヤクザにあこがれていた。 威勢のよい神輿が町を練り歩く恒例の夏祭りがやってきた。 浅利家の仏壇に御馳走をそえ、母子三人が水入らずで楽しい夕餉についたとき、玄関に四十過ぎの、顔に鋭い傷痕のある男が現れた。 「十八年前、源治親分を殺したのはこの飛田丑五郎です……」この男の思いがけない言葉に、一同は一瞬呆然となった。「親父の仇だ!」慎次はいきなりドスを抜いて丑五郎に切りかかったが、良太の腕ががっちりとこれを押さえつけた。「死んだおやじのことは忘れるんだ!」良太は昔の苦しみを断ち切るかのようにはやる慎次をなだめるのだった。 数日後、会社の慰安旅行で伊豆の温泉街へ出かけいった慎次はそこでバッタリ丑五郎に出会った。慎次がホテルで暴力バーの愚連隊相手に大乱斗を演じたとき、駈けつけて助太刀に入ったのが丑五郎だった。これが不思議な縁になって、慎次は丑五郎とすっかり意気投合してしまった。 伊豆で暴力沙汰をひき起こした慎次は、まもなく会社をクビになったが、少しも動揺しなかった。慎次の頭には丑五郎の力をかりて、将来、もう一度浅利組を再興しようという夢があった。 慎次の職を心配したミエはその後もたびたび浅利家を訪れたが、慎次はミエの明るい、天真らんまんな姿に次第に心を奪われていた。 母は反対だったが、将来、ミエと結婚すると慎次はきめていた。 数日たったある日、ミエを誘って、兄が経営するキャバレー「ブラック・ウイドウ」へ足を運んだ慎次は、兄のもとで自分を使ってくれるように頼みこんだが良太はこれを厳しく断った。弟をこんな商売に寄せつけたくないという良太の思いやりからだった。 つれない兄の返事にすっかり腹を立てた慎次は、ヤケ酒の勢いで暴れ始めた。折も折、大切なお客、難波田会長を迎えて丁重なもてなしをしていた矢先だけに、良太はバーテンに命じて、慎次を外へ引きづり出した。 難波田が帰ったあと、秘書の郷田ヤス子から慎次が難波田の車で連れ去られたという事実を知った良太は、何故か極度の不安に襲われていった。 良太は母に隠していたがヤクザだった。難波田の命令で動き麻薬密輸の仕事も引受けていたのだった。 慎次だけはヤクザの道を歩ませたくない。意を決した良太は、翌日、恐る恐る難波田の家へ出向きやっとのおもいで弟を連れ出すことができた。 「兄さん、僕の体にもヤクザの血が流れているんだ!」良太の必死の説得にもかかわらず、慎次はどうしても割切れない気持があとに残った。 良太は母を安心させる意味もあって、愛し合っている秘書のヤス子と近く結婚に踏み切るつもりでいた。ところが、ある夜、ヤス子から自分は難波田が良太に放ったスパイだと打ち明けられて良太はがく然とした。難波田に裏切られたくやしさが良太の胸を激しくしめつけた。 翌朝、難波田の手によって無残にひき殺されたヤス子の死体を路上に見て、良太はヤクザから足を洗う決心を堅めた。 一方、ミエにすっかり夢中になっていた慎次は、その後もたびたびデイトを重ねていた。 近くミエのアパートで盛大な誕生パーティーが開かれるはずになっていた。その当夜、やってくるはずの良太は姿を見せなかった。そして良太の使いと称する若い男が慎次をだまして難波田のところへ連れて行った。 難波田は慎次を利用して、逃走を続けている良太を呼び戻そうと企んでいたのだ。 尾行されている良太のことを思うと慎次はいてもたってもいられなかった。難波田のいうがまま三人の部下に監視されながら、慎次は良太が立寄るヤス子の実家へ向った。だが、二人のなかに、しばらく姿をみなかった丑五郎の顔を見て、緊張しきった慎次の心もいくらかときほぐれていた。 難波田の子分で厳重に包囲されたヤス子の家へ慎次は悲痛な面持で入っていった。やはり良太はその足で警察へ自首し、麻薬ルートを赤裸にさらけ出す決心だったのだ。 「左右に分れて逃げるんだ!」良太と慎次はピストル、猟銃片手に海岸線から森の中へ追いこまれ凄しい射撃戦が始った。 丑五郎はなにを思ったかいきなり仲間のゲンを討つと、先頭に立って飛び出し難波田の弾丸に絶命した。弟をかばいながら必死に抵抗を続けた良太も、最後の一人を射抜くと力つきて草むらに没していった。 すっかり静まりかえって虫のなき声が聞こえるすすき原を、良太の影を求めてさまよう慎次の姿が痛々しく月光に浮かびあがった。
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  • スタッフ
    企画 : 高木雅行 原作 : 松浦健郎 脚本 : 竹森竜馬、細見捷弘、伊藤美千子 監督 : 鈴木清順 撮影 : 峰重義 照明 : 吉田協佐 録音 : 古山恒夫 美術 : 木村威夫 編集 : 鈴木晄 音楽 : 鈴木忠興、池沢博 助監督 : 葛生雅美 製作担当者 : 山下昭 スチール : 斎藤誠一
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