私の患者になってくれてありがとう ―残存小腸0cmの短腸症候群、17年間の在宅静脈栄養の軌跡―
井上 善文
●著者が主治医として関わった残存小腸0cmの短腸症候群の患者、中村絵里さん。2017年3月に亡くなるまでの彼女の17年間の在宅静脈栄養(HPN)の軌跡をたどりながら、同時に今日の臨床栄養の問題点や課題をもあぶりだす、渾身の1冊。
●絵里さんが懸命に歩んだHPNライフ。医療者がそこから学びとらねばならないことは何か? 本物の栄養管理とは?
<まえがきより>
手術により小腸を全部摘出しなければならなかった患者さんがいる。診断は短腸症候群。食べることはできるが、小腸がないため、食べたものを栄養素として吸収される形にまで消化できないし、その結果として栄養素を吸収できない。食べても「栄養」にならない、身につかない。どうするか?
50年前は、このような患者さんは生きていけなかった。栄養障害のために命を落としていた。「栄養」を管理するための手段がなかったために栄養状態が維持できなかったのである。現在は、このような患者さんも生きることができる。中心静脈利用法(TPN)によって生きることができる、栄養状態を維持できる。TPNを家で実施する在宅静脈栄養法(HPN)を用いれば、ふつうに生活できる。ただし、それが何年、何十年と実施できる医療施設、医療者に巡り合うことができれば、である。さらに重要なのは、患者さん自身がこのHPNという医療の意義をきちんと理解し、確実に実施できる能力を有している必要がある。まわりの方、家族のサポートも必要である。臨床栄養学、特にHPNを理解した医療者と、そのような患者さんが巡り合うことができれば、本当の意味での、生きていくための「栄養」を管理することができる。
この物語は、自信をもってHPNを実施できると自負していた外科医と、残存小腸0cmとなった29歳の女性患者が巡りあった、医療としての記録である。(井上善文) 2,750円