「てにはドイツ語」という問題

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あらすじ

日本医学と「言語的事大主義」。
いまは忘れられた、ドイツ語を日本語の語順でならべて助詞などでつなげた「てにはドイツ語」とは、ドイツ語で医学教育がおこなわれるという、きわめて特殊で限定的な場で発生し、流通した言語変種といえる。「てにはドイツ語」による教科書も出されている。この言語変種をめぐって、日本医学界ではいかなる議論がなされたのか。「医学のナショナライズ」「ナショナリズムの医学」「日本医学」「大東亜医学」、敗戦後の「アメリカ医学」=アメリカ英語への転換、それは、近代日本語のあり方のみならず、学知のあり方までをもうかびあがらせるものである。

[目次]

序章 近代日本と「てにはドイツ語」  1
   1  「てにはドイツ語」とはなにか  2
   2  専門的・特権的な「てにはドイツ語」  5
   3  医学とドイツ語 ― 「上品ナ隠語」とその問題  11
   4  現在の医療従事者がつかうドイツ語起源の隠語  13
   5  近代日本語と「てには」 ― 和辻哲郎の議論から  17
   6  本書の内容  19
   注  24

第一章 「てにはドイツ語」の発生  27
   1  はじめに  28
   2  ドイツ医学の導入  32
   3  お雇い外国人からの脱却のあとに  48
   4  日本語で医学教育はできたのか  55
   5  おわりに  66
   注  68

第二章 問題化する「てにはドイツ語」とエスペラント――一九一〇年代後半における医学界の言語問題  79
   1  はじめに  80
   2  大沢岳太郎・村田正太論争の概略  82
   3  『刀圭新報』の立場 ― 医学界批判としての暉峻義等の援護  110
   4  村田正太におけるエスペラントの「発見」  122
   5  おわりに  136
   注  139

第三章 浸透する「てにはドイツ語」  151
   1  はじめに  152
   2  印刷されない「てにはドイツ語」  155
   3  印刷される「てにはドイツ語」 ― 熱い需要のもとで  168
   4  おわりに  183
   注  184

第四章 再問題化する「てにはドイツ語」――一九三〇年代から一九四〇年まで  187
   1  はじめに  188
   2  下瀬謙太郎「医学用語に関する世上の声」などから  190
   3  国語愛護同盟医学部と『日本医事新報』  201
   4  一九四〇年の「てにはドイツ語」問題  219
   5  おわりに  246
   注  248

第五章 医学用語統一への道と医師試験用語問題  257
   1  はじめに  258
   2  医学用語の統一へ  259
   3  日中医学用語統一論  278
   4  医師試験用語問題  288
   5  おわりに  308
   注  309

第六章 「大東亜共栄圏」のなかの「てにはドイツ語」  319
   1  はじめに  320
   2  「国語国字統一問題とテニヲハ独逸語問題」 ― 一九四一年三月  321
   3  第一一回日本医学会総会と「てにはドイツ語」問題 ― 一九四二年  325
   4  第一一回日本医学会総会の総括  334
   5  大東亜医学へ  338
   6  おわりに  365
   注  366

終 章 「てにはドイツ語」の終焉――ドイツ語から英語へ  373
   1  はじめに  374
   2  敗戦をまたぐ『日本医事新報』  377
   3  敗戦後の『茂木外科総論』 ― 「日独混合文」から「日英混合文」へ  398
   4  「言語的事大主義」という批判  406
   5  おわりに  411
   注  416

あとがき  423
人名索引  I
事項索引  VIII