ブラックホール戦争

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あらすじ

 「情報のパラドックス」という問題をめぐって、理論物理学者のレオナルド・サスキンドはスティーヴン・ホーキングと20年以上にわたって論争を続けた。本書はその理論的対決の物語だ。
 「情報のパラドックス」とは、ブラックホールに落ち込む粒子の情報は永遠に失われるのかという問題である。ホーキングは一般相対論の立場からその情報は永遠に失われると論じた。それがサスキンドのいう「ブラックホール戦争」の始まりだった。
 サスキンドによれば「情報の保存」は「物理法則の時間的な可逆性」という形で物理学に深く刻み込まれていて、ホーキングの主張は物理学の土台に爆弾を投下することに等しかった。サスキンドはホーキングの主張に抵抗し、ゲラルド・トフーフトとともに情報が失われることはないという論陣を張った。
 この論争が重要であるのは、量子論と一般相対論をいかにして調和させるのかという問題に結びついていたからである。量子論と一般相対論は物理学のもっとも根本的な理論でありながら、互いに両立できないままだ。ブラックホール戦争は、ふたつの理論を調和させることを目指した新しい物理学の基本的な枠組みをめぐる、熾烈な格闘だった。
 20年以上に及ぶ論争から「ブラックホールの相補性」や「ホログラフィック原理」といった新しいアイデアが生まれ、それらは今では世界中で盛んに研究されるにいたっている。ブラックホール戦争によって、物理学にパラダイム・シフトが起こったとサスキンドは断じている。
 サスキンドは理論的な対決の物語を遊び心たっぷりの読み物に仕上げた。読者を楽しませるための仕掛けが本書にはたくさんちりばめられている。サスキンドは基本的なことからていねいに説明しているので、本書を読むのに特別な知識はまったく必要ない。