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  • 谷崎潤一郎賞に名を残す明治の文豪、谷崎潤一郎の代表作の一つともいえる『春琴抄』。愛する春琴を美しい姿のままで自らの内に残すために視力を捨てる佐助は、一見すると外見的な美しさに囚われているかのように思われます。しかし、その実態はあくまで「献身」であり、美しさを誇りとする気高い春琴の内面の美しさに自らを捧げる行いであることがわかります。自分以外の誰もがかつての春琴の美しい姿とその後の春琴を比較するであろう中にあって、視力を捨てた佐助の中では春琴の美しい姿は決して変わることなく、そのことによって春琴は春琴として生き続けることができるだと気づくと、佐助の行いは自分を傷つけることで快楽を得るためのでもなく、春琴に近づくための自己満足でもありません。独善とは対極の献身の姿は、佐助と春琴以外の者には決して完全に理解することのできない二人で完結する愛の姿が見て取れます。人間的な温もりのある愛とはある種真逆の、刀剣のような冷たい鋭さを持ったものとして描かれる二人の愛は、まさに谷崎潤一郎にしか描けないものであるのではないでしょうか。

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    aplpalpaさん
    2016/04/02