愛する人達
購入した作品の読み方あらすじ
母の死後、母の初恋の人、佐山に引きとられた雪子は佐山を秘かに慕いながら若杉のもとへ嫁いでゆく――。雪子の実らない恋を潔く描く『母の初恋』。さいころを振る浅草の踊り子の姿を下町の抒情に托して写した『夜のさいころ』。他に『女の夢』『燕の童女』『ほくろの手紙』『夫唱婦和』など、円熟期の著者が人生に対し限りない愛情をもって筆をとった名編9編を収録する。
レビュー・口コミ(1件) 一覧へ
短編集です。タイトルは「愛する人達」ですが、このタイトルの短編はありません。私は「母の初恋」が一番好きです。母親が娘を預けた先は、母親の昔の恋人の家庭だった、というちょっとありえない設定です。無骨な父、人のいい母、素直で優しい彼女、彼女を慕う夫婦の子供、それなりに和気藹々とした家庭。そして、彼女はその家庭から嫁いでゆく…その時、父親に徹しようと、娘に徹しようとした二人の胸中は、いかばかりか。直接的な表現は少なく、心中を想像するような小説です。彼女のただ一度の告白は、霞のように儚くとも、二人の胸にずっと残り続けるのだと思います。