さよなら妖精
購入した作品の読み方あらすじ
一九九一年四月。雨宿りをする一人の少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国したとき、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶の中に――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。著者の出世作となった清新なボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ。
レビュー・口コミ(2件) 一覧へ
『さよなら妖精』は大人気ミステリ―作家米澤穂信の出世作です。帯では「ボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ」というなんとも不思議な言葉がありますが、まあそう表現したい気持ちもわかります。日本の高校生と、留学生のマーヤが出会うことで彼らの人生に大きな石を投げ込んだ…というストーリーですから。米澤作品にしてはキャラが普通すぎるのと、ミステリとしてはもう少しひねりがほしいと思い、読んだ当初はあまり好きではありませんでした。ですが、2015年に続編『王とサーカス』が出版されたことを機に再読したところ、結構面白かったです。本はつくづく読むタイミングだなと再認識しました。
ジャンル的にはミステリーなのだが、単に謎の解決に終始していないところがこの作品の読みどころである。何者か特別な存在になりたいという思春期、青年期のファンタジーが上手く描かれていると思うし、さらにその気持ちが謎解きの原動力として物語に組み込まれているという点は本当に素晴らしい。主人公の決意と挫折のサイクルがとてもリアルに描かれていて、もどかしさがこちらまで伝わってくるようだった。このもどかしいサイクルの末、最後の場面で主人公に成長の可能性が与えられているところに、何だか救われた気持ちになる。「さよなら妖精」というタイトルも、ファンタジーとの決別を示唆しているようで秀逸だと感じた。