匠の技 伝統の左官技術―失敗を乗り越えて50年―
購入した作品の読み方あらすじ
【内容紹介】
本書で紹介する中嶋氏は、文化財の土壁の修理に携わって五十年の永い経験を持ち、今なお左官の伝統技術を究明し続けている方です。社寺建築、民家、洋風建築と種々に亘る、数多い仕事の中で、若い時は特に城郭の土壁塗に力量を発揮しました。彼の方言混じりの独特の語り口調には、聞き手を引き込む情熱が秘められ、技術論を超えた左官の奥義が笑いの中に隠されています。彼の語りを綴った本書を今改めて読み直しますと、左官に一生を賭けた一人の男が描き出され、滅びつつある職人魂が浮き彫りになっている事に気付きました。
この書は、左官技術者は勿論、建築関係者、更に一般の方が読んでも理解出来る部分を多く取り入れることに努め、興味を持って読める内容を目標としました。多くの読者を得て、永年の歴史のなかで培われてきた伝統的な左官技術の本質が理解され、さらに忘れ去られようとしている土壁が、この日本の国土に蘇ることを願うものです。日本の気候と日本人の気質に合った壁、それは土壁だからです。(「あとがき」より抜粋)
【著者紹介】
中嶋 正雄(なかしま まさお)
昭和22年 岐阜県生れ
昭和37年 左官となる
昭和49年 中島左官株式会社 設立
中島左官株式会社 会長
全国文化財壁技術保存会(文化庁選定保存技術団体) 幹事
主な修復建造物
国 宝
昭和40年 犬山城天守(愛知県)
重要文化財
昭和38年 名古屋城西北隅櫓(愛知県)
昭和41年 曼陀羅寺書院(愛知県)
昭和42年 筥崎宮本殿(福岡県)
昭和44年 薬王寺観音堂(和歌山県)
昭和48年 南宮大社社殿(岐阜県)
昭和50年 旧太田脇本陣林家住宅質倉・借物倉(岐阜県)
昭和54年 旧下ヨイチ運上家(北海道)
平成7年 旧小林家住宅
(旧シャープ住宅、通称「萌黄の館」、兵庫県)
【目次】
推薦のことば
自序
序章 失敗の始り
漆喰を食う
第一章 失敗だらけ
お城の壁が浮く
麻縄が粉になる
だまされたセメント袋
昼から五時まで、うたた寝
敷き瓦が割れる
壁全面にヒビ
傾いた蔵の癖は、すぐには直らない
先入観の落し穴
白壁が緑色に
防腐剤の油が染み出す
天井が綺麗に落ちる
夜中まで仕事する
ニキビの肌
失敗は、やり直しさせて
失敗は心に仕舞う
第二章 左官の技
草を入れて壁土を作る
材料作りが八割
餅米が一番
団子の手打ち
荒壁のチリは斜めに押さえる
裏返し
中塗土はすさで調合する
石垣上の微妙な工夫
土は地震に強い
漆喰の追っ掛けも良し悪し
漆喰は防水
お城の壁は、強くなけりゃいかん
蛍の飛ぶ壁
土佐漆喰に感動
石灰と貝灰
黒漆喰の磨きは最高級
大津壁の磨きもある
白い大津壁もある
左官は水商売
色壁は薄い色が難しい
鏝絵は芸術品
誰も出来ない洗出し
特許の蛇腹の引き型
葉っぱも道具にする
木舞の横竹から荒壁をつける
貫伏せ
左官屋の仕事は多種多様
油塀
割れない三和土
蔵は左官が棟梁になる
第三章 左官の世界へ
小学生で芽生えた、経営の才
お爺さんを魅了した、粘土細工
就職したかった、高山一刀彫
左官の親方、亀に驚く
早起きの競争
初めての現場で鏝を持つ
独立へ
稼いだお金を返しに行く
第四章 左官の未来
左官は雑工事
何とかならんか、年度末工期と労働時間
再び巡る文化財の修理
ゆとりが良い仕事をする
会社の未来
左官の未来
あとがき
左官用語の解説