アローナの嫁取り祭り【分冊版】 商家の三男坊と食堂の娘
あらすじ
砦を抱き、騎士が駐屯する国境の街・アローナの収穫祭は、「嫁取り祭り」ともいわれている。祭りの日に想いが通じ合った二人は、生涯仲睦まじく暮らせるという。アローナの宵祭りをめぐる市井の男女の恋の行方。
街の食堂『跳ねる仔馬亭』では看板娘マリアの明るく元気な声が響いている。昼の遅い時間に店を訪れたのは、裕福な商家の三男で家業を手伝うセリオス。五年前、マリアが学校を卒業して以来、ずっと通ってくれている常連だ。末っ子で「妹がほしかった」というセリオスは、マリアをそう見ているのだろう、何かと気にかけてくれている。そんなセリオスを兄のように慕っていたマリアだったが、いつしかセリオスを男性として意識するようになる。まもなく宵祭りがはじまる。ふいにセリオスが「宵祭りで逢ったら、一緒に屋台のものでも食べよう」とマリアを誘った。宵祭り――。セリオスはその意味をわかっているのだろうか? 考えすぎだと自分の気持ちを抑えながら、それでもマリアは祭りの二日目に、せいいっぱいおしゃれをして出かけたのだが……