黒と茶の幻想(上)
購入した作品の読み方あらすじ
太古の森をいだく島へ――学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理(ゆうり)を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。
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恩田陸さんの「黒と茶の幻想」は「三月は深き紅の淵を」から派生した物語の一つです。学生時代の同窓生だった4人が「非日常」と「美しい謎」をテーマに屋久島へ旅するのですが、利枝子、彰彦、蒔生、節子の視点で順番に語られる手法が斬新で、語り手が変わる毎にそれぞれの関係性や過去の謎が少しずつ明らかになっていきます。かつての恋人・蒔生への複雑な感情を抱えた利枝子、どんなときでもくつろいでいられる蒔生、そんな二人の関係をはらはら見守る彰彦に、達観しきった節子が織りなす会話は機知に富んでいて、一緒に屋久島を歩いているような気がしてきます。「麦の海に沈む果実」にも出ていた梶原憂理がキーパーソンとして現れるのも、恩田作品ファンにはたまりません。