永遠の野球少年 古希野球に命を懸ける70代の“球児”たち
著:中大輔
NHKドキュメンタリー「目撃! 日本列島」でも放映されて、話題となった群馬の古希野球チームの強豪「西毛安中クラブ」に密着!
メンバーは全員70歳以上で、そのほとんどがガンや脳動脈瘤、糖尿病、心筋梗塞など重度の持病を抱えているが、試合中のプレーは真剣そのものだ。
全力疾走にヘッドスライディング……、プレー中に亡くなった人も一人や二人ではない。
文字通りの“命懸け”の野球――。
そして取材を進めている最中に、いつも冗談ばかり言って周囲を笑わせ、明るく元気だった一人が、突如帰らぬ人に……。
旅立ちの日の直前、病室で最期に口にした、尽きることない野球への想いとは――。
「……ハァハァ……編集長さぁ……9回裏2アウトになっちゃったよ」
木村監督らしい表現だった。
「下半身には転移はしてねぇよ……上半身全部だ」
一言一句、聞き漏らすまいと耳をそばだてた。
「一時間後にゃあ、意識が混濁しちゃって、なんてこともあるわけだからさ……話しておきたいと思ってさ……ハァハァ……取材、してくれよ」
仕事をしろ! 僕はレコーダーをテーブルに置き、録音ボタンを押した。編集長が笑顔で、努めて明るい口調で言った。でも、声は細かく震えていた。
「監督っ! もう一度、グラウンド、立ちたいでしょう! 」
木村監督はそれには答えず、代わりに胸の前で、両方の人差し指を交差させ、バッテンを作った。
なんすか、それ……。監督、なんですか、それは。なにがバッテンなんですか!
「……ハァハァ……それは、言わないでくれよ……」
木村監督の乾いた目尻を、一筋の涙が潤した。しかし、深く刻まれた皺の溝に溜まって、流れ落ちずに留まった。
ついさっきの「思い残すことはねぇんだ」とは全然違う。その涙はどうしようもなく、本物だった。
いつも冗談の合間に本音を差し込んでくる監督が、大好きな大好きな野球のことに触れられた瞬間、まるで無防備に涙を流したのだ。それほどまでに野球が――。
本文より
なぜ、70代にしてそこまで野球を愛し、命懸けで白球を追いかけるのか!?
その理由に迫り、生命の意味をも問う、涙と感動のノンフィクション!! 1,650円