アカシアの雨がやむとき

01:29:07
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330円 湖は森の樹木の間から忍びよる乳白色の霧の底に沈んでいた。この湖の岸に一人の青年がカンバスに向かってしきりに絵筆を走らせている。 ふとカンバスから湖の水の上に視線を移した青年の眼に一隻のボートが映った。そのボートの上には若い女が倒れていた―。 青年の泊っている牧場の一室に運び込まれた女はまだ恐しさに唇をふるわしながら、青年に一部始終を語るのだった。 女は杉山恵子といい、東京でファッションモデルとして若杉みどりというその舞台名(ステージネーム)はかなり知られているものであった。 ある宣伝写真の撮影のためにこの湖畔にやって来た恵子はカメラマンの中村に誘われてボートに乗ったが、湖上で突然挑みかかる中村を夢中で突き飛ばし、そのまま気を失なったという。中村がどうなったかは恵子も知らない。 彼女の気をひきたてるために青年は湖の周囲をいっしょに歩きながら、恵子の八才のときに父親を失い、いまは病身の母親との二人だけという生活を知った。 派手な仕事を持つ女性にしてはどこか暗い影がある――こう考えていた青年は、恵子が自分と同じように幼いときに父親を失くしている境遇にいつか自分にも説明のつかぬ感情を抱きはじめていた。 恵子が全快して東京へ帰るとき、青年は求められるままに自分の名を告げた。「石崎英夫さん……」小さく繰り返す息子の声を聞きながら、青年は「おそらく自分は東京へ帰ったらこの女性を訪ねていくだろう」と思った。 しかし東京へ帰った恵子を待っていたものは、中村の溺死とそれにまつわる恵子のスキャンダルの噂であり、冷たく恵子を拒む舞台であった彼女はそれから仕事を探して歩き廻らなければならなくなった。こうした恵子にとって唯一の心の支えとなっているものは、石崎英夫の明るい笑顔である。 石崎は恩師の家に下宿しながら、フランス留学を夢みている青年だった。希望に燃える石崎の激励は、恵子の沈みがちな気持に一点の灯をともしつづけた。石崎もまた恵子の就職口を求めて奔走した。 こうした石崎を見て、才能をつまらぬ女のために浪費するなと忠告するのはナイトクラブでピアノを弾きながら作曲を勉強している先輩の近藤であった。 だが石崎は恵子と会いつづけた。絵画展へ恵子を案内したことが、ある週刊誌に新進画家とモデルの醜聞として大きく扱われた。 恵子は石崎の将来と才能のために、何処へとも知れず石崎から去っていった。 彼女を失ない情然としている石崎を見て、近藤は彼の才能のためにかえって喜んだ。近藤は石崎を慰めようと自分の働いているクラブへ案内したが、このとき近藤に紹介された石崎といっしょに踊った歌手の三好幸子は石崎の何かを思いつめているような瞳に次第に惹かれていった。 一方、偶然近藤や幸子の働いているクラブの踊子となることができた恵子は、二人のあたたかい激励によってやっと病身の母親との生活を支えていくのだった。 こうした恵子に、彼女のモデル時代のマネジャーの木島が摩手を伸ばしはじめた。木島は彼女の口があるからとホテルに誘い込んだが、近藤や幸子の気転で恵子は危うく虎口を脱することができた。息子が石崎の探し求めている女性とは知らぬ近藤はいつのまにか彼女を愛しはじめていた。 とうとう恵子の母親が長い闘病の末亡くなった。悲嘆にくれる恵子の机の上にはアカシアの雨に打たれて、このまま死んでしまいたい――という感想の走り書きが見られた。 近藤はこの恵子の心を自分の作曲で幸子に歌わせてみたらと思うのだった。 石崎が湖畔で描いた「霧の湖」が展覧会に入賞した。天才的な新進画家として新聞に紹介された石崎の写真と作品を眺めているうちに、恵子は突然石崎の絵の前に立ってみたい気持がこみ上げてきた。 石崎が自分の絵に見入っている恵子の姿を会場で見つけ声をかけたとき、彼女は身をひるがえして会場から逃れようとした。やっと石崎が恵子に追いついたとき、 そこへ連れ立って来た近藤と幸子にばったりと思った。このとき石崎も近藤もそして幸子も、四人の関係のすべてを理解した。 凝然と立ちつくしている四人に、突然襲いかかってきたのは木島の息のかかったやくざである。 近藤を助けようとした石崎は、やくざの一人がふるったチェーンに両眼を叩かれた――。 失明の恐怖に絶望する石崎を恵子は二人にとって思い出の湖畔の牧場へ療養に連れていった。せめて太陽の光だけでも見えるようになればーーともすれば希望を失いかける石崎を必死に看病した甲斐あって、石崎が絵筆を再び握る自信を取り戻したころ、近藤と幸子のアカシアの雨,の哀愁に満ちた旋律が流れはじめていた。
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  • スタッフ
    企画 : 浅田健二、柳川武夫 原作 : 川野京輔 「明星」所載 脚本 : 棚田吾郎、砂山啓三 監督 : 吉村廉 撮影 : 姫田真佐久 照明 : 岩木保夫 録音 : 米津次男 美術 : 小池一美 編集 : 井上親弥 音楽 : 藤原秀行 助監督 : 坂口喜久男 製作主任 : 松吉信幸 スチール : 萩野昇 主題歌 : ポリドール・レコード
(C)日活株式会社

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